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留学便り

朝倉崇徳先生 - 留学先:Marsico Lung Institute/UNC Cystic Fibrosis Center, University of North Carolina at Chapel Hill

Q1 朝倉先生の経歴を教えてください

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私は2010年に慶應義塾大学を卒業し、その後千葉県にある国保旭中央病院で初期研修を行い、慶應義塾大学病院や国立病院機構東京医療センターで内科研修を行いました。当時の慶應での内科研修は内科学教室の全7内科をローテートする時代でした。
初期研修1年目の6月に肺高血圧を呈したチアミン欠乏症を経験し、指導医の小寺聡先生(現・東京大学)、同年から英語論文の指導で月1回来院していた池田正行先生(現・香川大学)に英語論文作成の指導を受けました[1]。
また、当時カルバペネムが第一選択とされていたESBL産生菌の尿路感染症に対して、その他の薬剤でも改善する症例があること、積極的にセフメタゾールなどにDe-escalationされていることに着目し、研究を行いました[2]。
これらの経験を通じて臨床現場のことを含めてしっかり情報が発信できる医師になりたいと考えるとともに、多様な疾患があり不明点が多い呼吸器内科に魅力を感じ、2014年に呼吸器内科に入局、同時に大学院に入学しました。

大学院では、故・別役智子先生(呼吸器内科前教授)、長谷川直樹先生(感染症学教室教授)、田坂定智先生(現・弘前大学呼吸器内科教授)、石井誠先生(現・名古屋大学呼吸器内科教授)のもと、症例報告から様々な臨床研究・基礎研究に関わる機会をいただきました。
基礎研究では肺気腫、インフルエンザ、肺炎球菌などのマウスモデルを用いた研究を行いました[3]。
臨床研究では肺非結核性抗酸菌(NTM)症を中心とした研究に従事しました[4]。
先輩(特に舩津洋平先生、南宮湖先生、岡森慧先生、八木一馬先生)、同期(鈴木翔二先生・加茂徹郎先生)にも恵まれ、楽しい時間を過ごすことができました。

その後、2018年4月から国立感染症研究所客員研究員、2019年6月からノースカロライナ大学チャペルヒル校での博士研究員(2018年4月から2020年3月まで日本学術振興会特別研究員(PD)、2020年4月から2021年9月まで同海外特別研究員)を経て帰国、2021年10月からさいたま市立病院で舘野博喜先生・吉田秀一先生、同期の鈴木翔二先生に再度臨床を叩き込んでもらい、2022年4月から北里大学薬学部生体制御学講師/北里研究所病院呼吸器内科医長として勤務しています。
同薬学部教授の鈴木雄介先生・同研究所病院呼吸器内科部長の中山荘平先生が最大限配慮して下さり、現在は病棟や外来業務、教育業務とともに、研究業務もすすめております。
北里大学研究所病院・慶應義塾大学の環境を最大限活かしながら、ヒト肺検体やヒト気道上皮細胞検体を用いた研究を軸に行っており、ノースカロライナ大学との国際共同研究も継続しています。 

Q2 留学先での研究や生活について教えてください

ノースカロライナ州チャペルヒルにあるノースカロライナ大学チャペルヒル校、Marsico Lung Institute/UNC Cystic Fibrosis CenterのRichard C. Boucher博士のもとで2年3ヶ月間働きました。
大学院を卒業後、①ヒト由来の検体を取り扱えること、②今後も長い目で取り組める分野であること、を軸として留学先を探しました。
テーマとしては大学院時代に肺NTM症の外科手術や検体を用いた研究に携わったこと[5]、欧米での注目が高まっていることから気管支拡張症を主軸に設定しました。
偶然にも、日本人が在籍し情報が入手しやすかった上記研究室をPubMedで発見することができ、奥田謙一先生(現・Assistant Professor)、松井弘稔先生(現・東京病院院長)を通じてご紹介いただきました。
2019年1月に初めてラボを訪れてインタビューを受けた5日間は忘れられない思い出であり、当時構想したプロジェクトで現在も継続的に取り組んでいるものもあります。

Marsico Lung Institute・Marsico Hall

留学先の研究室は、研究にじっくり取り組めるよう、環境を整えてくださいました(写真:私が使用していた実験台)。大学院時代に多くの技術員さんに助けていただいていた手技を自身で見直すとともに、効率化を図る、ヒトの喀痰・肺を用いた新たな実験に取り組む、など様々な経験をすることができました。また、研究規模・計画の大きさ、大小の共同研究の重要性、より緻密で論理的な助成金申請書の書き方など、様々な面で数多くの刺激を受けました。
一日の生活は、朝8-9時頃から17時頃まで研究室で働き、その後一度家で過ごし、また研究室に戻り、夜24時頃まで働くような形でした。家族との時間を以前より多く取ることができたので、子供が生まれて8年目にして初めて子育てに本格的に関われたかもしれません。
ボスであるDr. Boucherは70歳を超える年齢ながら、研究に関する飽くなき好奇心に溢れており、土日を含めて研究に取り組む、まさに超人でした。

私が使用していた実験台

留学して1年弱が経過したところでコロナ禍となりました。当初は研究室内で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関しては研究しない様子でしたが、長年コロナウイルスの研究に取り組まれてきたRalph S. Baric博士の研究室が学内にあったことから共同研究が始まりました。
米国内からCOVID-19剖検肺の病理組織が集積され、in situ hybridizationや免疫染色を用いて評価する仕事が与えられ、ロックダウンの中ラボメンバー皆で土日を含めて実験し、貴重な経験をすることができました。幸い、COVID-19が線毛細胞へ主に感染することを世界に先駆けて報告することができました[6]。
また、COVID-19により研究スタイルに変化がありました。以前よりも研究に迅速さが求められたため、ラボ内での網羅的な解析の閾値が下がり、様々なモデルで整合性を確かめながら仮説を作成するようになったように思います。
さらに、Zoomなどのオンラインツールが普及したことで、場所関係なくコミュニケーションを取ることができるようになり、そのおかげで、帰国後もスムーズなやり取りができています。
COVID-19に関する研究ではラボ内や他の研究室の方々と多くの共同研究をする機会をいただきました[7]。遅れてしまった自分のメイン論文もなんとかpublishされました[8]。
現在も共同研究を引き続き進めています。

帰国時のパーティー

Q3 留学の楽しいこと、つらいことを教えてください

 私は日本語・英語を含めてコミュニケーションが得意なタイプではありませんので、ドキドキしながら留学に出ていった部分がとても大きいです。それでも、ラボ内で少しずつ信頼を得られたことは楽しく、貴重な経験となるとともに自信にもつながりました。
コロナ禍の影響であまり遠出はしなかったのですが、自然が豊かな場所でしたので、バーベキューやキャンプに家族で行ったことなど、繰り返しになりますが家族と多くの時間が過ごせたことは何より楽しいことでした。
私の留学先は治安が良く深夜まで研究していても問題がなかったこと、子供の教育環境が整っていたこと、当時は生活費用がそこまでかからなかったこと、などの面では恵まれていたため、環境面で辛いことは少なめであったかもしれません。

また、キャリア選択に関して日米を含めた違い、臨床医以外の選択肢を含めて様々な形があることを知りました。(臨床医としては)現場から離れる時間が増えるため、その分臨床医としての経験を失うことになります。そのような中で自分がどのように生きたいのか、今後のキャリアを考える上で留学は大変良い機会となりました。
このような機会をくださった福永興壱先生(呼吸器内科教授)、長谷川直樹先生をはじめとする多くの先生方に心より感謝申し上げます。

Q4 医局の後輩、入局を考えている方へメッセージをお願いします

慶應呼吸器内科に入局する最大のメリットは様々な人との出会いがあることです。
肺NTM症・気管支拡張症に興味を持つこと、研究を続けたいと思うこと、留学すること、これらすべて、呼吸器内科に入局するまで私は想像することができませんでした。そんな中、呼吸器内科医局での様々な先生方との出会いを通じて、「あんな風になれたらいいな」という憧れを持ち、様々な経験をすることができました。
一つ一つの偶然の重なりに感謝しつつ、この医局に一人でも多くの仲間が参加してくれていることを願っています。

[1] BMJ Case Rep. 2013 [PMID: 23302552]
[2] Int J Infect Dis. 2014 [PMID: 25461239]
[3] Mucosal Immunol. 2018 [PMID: 30116000]
[4]
Respir Res. 2015 [PMID: 26635226];
Clin Infect Dis. 2017 [PMID: 28369361];
Respir Med. 2017 [PMID: 28427555];
BMC Pulm Med. 2017 [PMID: 29237500];
Int J Tuberc Lung Dis. 2018 [PMID: 29862956];
J Infect Chemother. 2019 [PMID: 30172726];
Respir Med. 2018 [PMID: 30509718];
Respir Investig. 2019 [PMID: 30598398];
Open Forum Infect Dis. 2019 [PMID: 31111076];
Respirology. 2021 [PMID: 32602203];
Respir Med. 2020 [PMID: 32917357];
Respir Med. 2021 [PMID: 34175804];
BMC Pulm Med. 2022 [PMID: 35596169]
[5]
Clin Infect Dis. 2017 [PMID: 28369361];
Respirology. 2021 [PMID: 32602203]
[6] Cell. 2020 [PMID: 32526206]
[7]
Am J Respir Crit Care Med. 2022 [PMID: 35816430];
Cell Host Microbe. 2023 [PMID: 36563691];
EBioMedicine. 2022 [PMID: 35217407]
[8] Am J Respir Crit Care Med. 2024 [PMID: 38016030]


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